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【一】みかりん、音程を外さずなりぬる事



中ごろ、音程を外すむすめありけり。
「わたしはあなたと流れ星」の「あ」音を常に外し、
〈 みかりんの「あ」〉とて名高かりけり。
ある男、デビューよりこの娘を推したりけるが、
「あ」音を案ずるあまり、
「みかりんが「あ」を外さずなりなば、われ他界せむ」と常に言ひたりけり。
男の念、通じたるにや、この娘、音程あやまたずなりにけり。
男、覚えず落胆し
「みかりんはいかで育ちけるぞ」と、ひとりごちけるが、
誰か歌にかありけむ
「つひに行く道とはかねて知りしかど昨日今日とは思はざりけり」
と口ずさみて、見事他界しけるとかや。

(訳)
中ごろ、音程を外す娘がいたそうだ。
「わたしはあなたと流れ星」の「あ」の音程をいつも外し、
〈みかりんの「あ」〉といって有名だった。
ある男、デビューの時からみかりんを推していたが、
「あ」音を心配するあまり、
「みかりんが「あ」音を外さないようになったら、わたしは他界しよう」といつも言っていた。
男の一念が通じたのか、この娘は音程を外さないようになった。
男は思わずがっかりし
「みかりんはどうやって育ったのか」と独り言を言ったが、
誰の歌だったろうか
「ついに行く道とは以前から知っていたが昨日今日とは思わなかったよ」という歌を口ずさんで、見事他界したということだ。

(語句・文法)
外さずなりたらば:外さ(サ行四段動詞・未然形)ず(打消の助動詞「ず」連用形 下の動詞「なる」にかかる)
 なり(ラ行四段動詞「なる」連用形)たら(完了の助動詞「たり」未然形) ば(助詞 未然+ば:仮定)
  外さないようになったら
いかで育ちけるぞ:いかで(どうして・どうやって)育ち(タ行四段動詞・連用形)ける(過去の助動詞「けり」連体形)ぞ(助詞)
  どうやって育ったのか。どうして育ったのか。
ひとりごつ:独り言を言う

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