ある男、さるグループのもとで時を過ぐしけり。さしたる推しは無けれど、黄色のかおりん良しと、すずろに思ひたりけり。
ここに緑のとろりん、地味なれど笑顔絶やさぬ娘なりけるに、ある時天魔のしわざにや、髪を赤く染めて現れたりけり。
男うちふるへ「よきかな、よきかな。われ優等生の本性見たり」と、うめきけり。
それより、とろりんの面影、つゆ忘るることなし。かおりんはうちやりて、あながちにとろりんへおもむくこそ、あやしけれ。
「あはれ、黄は非の打ちどころなき美少女なるを」とぞ皆人あやしがりけるとぞ。
(訳)ある男は、さるグループのところで時を過ごしていたそうだ。特別な推しはなかったが、黄色のかおりんが良いと、なんとなく思っていた。
ここに、緑のとろりんは、地味だが笑顔を絶やさない娘だったが、或る時、天魔のしわざであろうか、髪を赤く染めて現れた。男はふるえて「良いねえ、良いねえ。わたしは優等生とろりんの本性を見ている」とうめいた。
それ以来、とろりんの面影を、全く忘れることがない。かおりんはうちやって、むやみにとろりんへ行くのは、奇妙なことだ。「ああ、黄色は非の打ちどころのない美少女なのに」と皆人は不思議がったということだ。
(語句・文法)
すずろに:形容動詞「すずろなり」連用形 なんということもなく
つゆ忘るることなし:つゆ~打消 まったく~ない・ちっとも~ない
あながちに:形容動詞「あながちなり」連用形 強引に、むやみに